好きも嫌いも冷静に
有難うございますと、嬉しそうな顔をした女将さんは、アップにした髪の襟足をそっと押さえ、下がっていった。
なんていうか、店の雰囲気とよくマッチしている。和服がとても似合う人だ。
確かめた訳ではないが、俺の目には、少し年上で、離婚経験がありそうな、そんな人に映っていた。そんな感じでないと、愁いがあり、しっとりとした感じは出ないだろうと、勝手に思い込んでいた。妖艶とでもいうのかな…。
漬け物を口に放り込んだ。
…素敵な営業さん。
何か筋トレでもしているのかしら。
スーツの上からでも解る、引き締まっているだろう肉体。
これから益々、男の色気も増して来て、もっと本当の意味でいい男になりそう。
彼女は居るのかしら…。
と言うより、結婚はして無いのかしら…。
仕事上、営業なら、信頼感があるからと、結婚指輪はきちんとする人が多いもの。それが無いのはやっぱり…。そうなると独身なのかしらね…。それとも自信があるから指輪はしないと決めているのか…。
まだ二十代かしら…、そうで無くても三十くらいかしら…。三十はいって無いわね、きっと。
まあ、私のような年上女には興味も無いか…。
一人寂しく料理屋なんかしてるって、何かしら訳あり女に見えてるだろうし…。
何より、この幸薄そうな感じも、誤解の元なのよね…。
それにしてもイイ男。綺麗な男前だわ。
黙ってても女の方が放って置かないでしょうね。
来るもの拒まず、なのかしら…。男の人は若いうちは案外、そういうものだと聞くけど。
そんな悪い雰囲気はなさそうだけど…。
あら、そろそろ、お帰りかしら?
さすが、男の早飯。
「ご馳走様でした」
「また、是非、お立ち寄りくださいね」
お釣りを渡しながら、そっと添える振りで手に触れた。