好きも嫌いも冷静に
「何だか物騒な話ですね」
自転車に跨がり、遠ざかるお巡りさんを見送りながら、俺は大家さんの様子を窺った。
「大丈夫ですか?怖いですか?」
聞くことでもない。犯人もまだ捕まってないっていうし、怖いことは間違いない。
「え?はい…何とも言えません。傷害とか殺人とかではないですが、実際出くわしたらって思うと…怖いですね」
気のせいだろうか。自分を抱きしめるようにしている大家さんの体、小刻みに震えているような…。空き巣なんて…怖いよな。
「不躾ですが、コーヒーでも飲みませんか?」
「え?」
「俺の部屋という訳にはいきませんから…俺が朝寄ってるカフェに行きませんか?少し気分転換に。そんなに遠くないですから。
美味しいケーキもありますよ?お供して頂けませんか?どうでしょう?」
「いいんですか?」
「是非。お供していただけると助かります。
寒いですから、上着を何か羽織ってから行きましょうか。
ここで待ってますから、準備して来てもらって良いですか?」
「はい!すぐに」
大家さんはパタパタと駆け込んで行った。
少し元気になってくれたみたいだ。それだけでも良かった。
「お待たせしました」
「大丈夫です。さあ行きましょう。そうだ。お巡りさんが来て話していたら、御飯もまだなんじゃないですか?」
「はい、まだ準備も…」
「ではまず御飯を食べて、それからケーキも頂きましょう」
「あ、はい!」