好きも嫌いも冷静に
コンコンコン。
控えめにノックした。
少し間があってドアが開いた。
俺は心が定まらないまま、足を踏み入れた…。
「俺が居ても気にせずと言っても難しいでしょうが、いつも通りにしてください。寝袋持って来たので、ここら辺で転がりますから」
「でも、あの。…ごめんなさい…無理にお願いして‥」
「いいえ。無理とは違います。提案は俺がしたんです。幸い明日は休みです。一晩くらい起きていても大丈夫です。明日の昼間、寝ますから」
「…はい。あの、コーヒーでも入れましょうか?」
「あ、いえ。あ、でも…そうですね、やっぱり、ブラック、入れてもらっていいですか?」
「はい」
「…時間を空けて少しずつ飲みます。眠気覚ましにね」
「あっ。…はい。そうですね」
「どうぞ」
「すみません、有難うごさいます」
「そんな…、こんな事くらい、何でもありません。あの、少しお話してもいいですか…」
「はい、構いませんよ」
「私…、一人ぼっちなんです。一人暮らしの一人ぼっち。両親は亡くなっています。兄弟もいません。親戚も…、私の知り得る範囲で居ないと思います。
ごめんなさい、‥いきなりこんな自分の話‥」
「いいえ。そうですか…。ご両親は事故か何か、不慮な事ですか?すみません、立ち入った事を」
「いいえ、普通にと言いますか弱って‥、老衰というにはまだ若かったのですが。内臓疾患で。
私は遅くに生まれた子だったので、もしかしたら、子育てが年齢的にきつかったのかも知れませんが…」
美作さんはソファの前で寝袋に体を入れ座って聞いていた。
私はソファの前でクッションを抱え座っていた。