好きも嫌いも冷静に
「何をどうしたいんだ?」
「うん…、あれから、顔、見ないんだ。
前から、出勤する時は殆ど毎朝、会ってたし、あ、大家さんがいつも居るんだ、玄関先掃除しながら。帰った時も…遅くても、お帰りなさいって、言ってくれてたんだ。
それが、あの日以来…、一度も会わないんだ。解ってるよ?気まずいって感覚は」
「うん。澪さんは…気を遣って…遠慮してるんじゃないかなぁ。伊織に負担というか、迷惑かけたんじゃないかとか、我が儘言ったのに叶えてもらえたから、そんな自分がちょっと嫌だと思っているのかも知れないな。…解らないけど」
「大丈夫なのかな…」
「何が?」
じれったいわねー。
「あれから、もう怖くないのかなと思って」
そんなの大した問題じゃないわよ。
「大丈夫だろ。自分の家に空き巣に入られた訳じゃないから。怖いと言っても、もしもに対する怖さだから、それほどでもないと思うけどな…。
程度は人それぞれだし、怖い経験がある人なら、尚更怖いだろうけど。まあ、普通、大丈夫だろ」
「そうかな…まあ、そうだよな」
そうよ。
「ああもう!心配で仕方ないなら、訪ねていけばいいじゃない。本当にじれったいわね。気になるって事は、好意があるからよ。伊織はすでに澪さんが好きなのよ!いい?解った?
これでスッキリしたでしょ?どう?」
「…英雄」
「なによ!」
「お前、男だよな」
「そうよぉ。今更、何?」
「…よく解るな、女心。それに俺の事も」