好きも嫌いも冷静に
ドクンドクンドクンと激しく鳴る響きが胸に伝わってくる。俺のもきっと同じだ。同じように響いているだろう。
「…あの日、中途半端な事をして、反って貴女の心を乱してしまいました。すみませんでした」
腕の中で首を小さく振り続けた。
「…さあ、もう泣き止んでください」
俺は顔を覗き込んで溢れ出す涙を拭った。あ、拭っても拭っても、涙は雫になってこぼれてきた。
「…泣かれると、どうしたらいいか解らないんです」
ジッと見つめた。
(バカ伊織、そこは有無を言わさずキスしちゃうのよ)
英雄の声が聞こえた気がした。
いや、…ずるいな。
これは俺の心が言ってるんだ。
泣いてる大家さんの顔に屈み込むようにして下から唇を押し付けた。
(そうよ、伊織。もっと、もっとよ)
…クスクス。ああ、解ってるよ、英雄。お前のお陰だな。
あっという顔をして驚いていた。
俺は止めることなく口づけながら、大家さんの体を支え玄関に入った。
後ろ手にドアノブを探り当て閉めた。
壁に押し付けるように囲い込み、抱きしめ、ゆっくり啄み続けた。一度離れ、顔を近づけて見つめ合った。
互いに唇を求めた。
甘く柔らかく…そしてしょっぱい…。
………欲しい…。欲しくなった。どうしようもなく、欲しい。
「…俺の部屋に来ますか?」