好きも嫌いも冷静に
・不審者!
私は頷いた。
美作さんは私の手を引き階段へと歩き始めた。
私…。今日…美作さんと…。
何だか恥ずかしくて俯きながら歩こうとした時…。突然肩を抱き寄せられ顔をくっつけられた。勢いの余り、唇が耳に微かに触れた。
えー、な、何?えー…。
「……シーッ、このまま何もなかったように部屋に戻ってください。入ったらすぐ鍵を掛けてください。いいですね?自然にですよ?
俺が声を掛けるまで、絶対出ないでください」
囁くようにでもはっきりと早口で言われた。
「…は、い…」
急にどうしたのか…訳が解らなかった。
「さあ、急いで」
従うしかない。
そう言い終わると同時に黒い塊が動いた気がした。言われた通り、部屋に飛び込むように入り、急ぎ鍵を掛けた。…はぁ、今のなに?
「誰かそこに居るのか!」
ダダダダダッと勢いよく階段を駆け降りる音がした。
えー、なに?なに?
「待て!あんた誰だ?ここの住人じゃないだろ?」
俺は後先考えず、その男を捕らえ、腕を取り、後ろ手に捻りあげた。
「くそっ、離せよ、離しやがれ!」
「あんた、もしかして、この前の空き巣じゃないのか?」
「ちっ、だったら何だよ」
「大家さん、大家さん!」
カチャ
「は、はい!」
「110番してください。空き巣です。この前の。早く!」
「は、はい!」