好きも嫌いも冷静に
「いや〜、御協力に感謝致します。容疑者を取り押さえて頂き、誠に有難うございました。
しかし、勇敢ですな。何を所持しているのか解らないのに。
捕らえて頂いて言うのもなんですが、今後はこのような無茶はしないでくださいね」
「…はい」
アパートの周りは騒然としていた。
滅多に事件らしい事件も起こらない。…こんなに来なくても良いんじゃないかというくらい乗りつけられた警察車両。赤色灯の明かりが建物に反射していた。見ている人も赤く染まっていた。
住人も何事かと顔を出していた。この前のお巡りさんの顔もあった。
「はい、皆さ〜ん。空き巣は捕まえましたから、どうぞ御安心を」
鶴の一声とでもいったところだ。おーっと言う安堵の声が響めいた。口々にざわついていた状態が、一転して静かになった。
そして早いものだ。各々部屋に戻っていった。
「大丈夫でしたか?美作さん。お怪我はありませんか?」
「はい、何も」
やっとまともな会話が出来たのは、野次馬も帰り、警察車両が去り、俺も事情聴取のため、明日出頭する約束をした後だった。
「…良かった」
「俺も良かった。大家さんに何もなくて…」
「美作さん…怖かった。怪我するんじゃないかと…」
大家さんが抱き着いてきた。
「大丈夫ですよ。どこも何ともないですから。案外しおらしいもんでしたよ?抵抗しなかったですから」