ブルームーンな再会
「横谷さん。今日はもう終わりでしたら、良かったら少しお話しませんか?」
にこやかに、嬉しそうに向田君が誘う。え。とか、あ。とか間抜けな返事しか返せない。
するりと一歩、向田君が近づいてきた。無意識に距離をとろうとして、土蔵の扉に背がぶつかる。もしかしてこれは。追い詰められた私を、更に一歩近づいた向田君が覗き込む。藤色の組紐と黒髪が揺れた。
「もう一度逢えて嬉しいです。少しでいいですから。ね?」
そっと耳元で囁かれた。低く色っぽい声にぐわんと頭の芯が痺れる。
「ぎゃあああああああああああ!!!!!!」
私は向田君を突き飛ばして逃げ出す。
(知らないっ!!! 向田君のそんな声知らないイイィィィィィ!!!!)
突き飛ばした拍子に爪の端で向田君に切り傷をこしらえ、それをネタに追い詰められることになったのは、その翌日の話である。