最後の賭け
 繰り返されたその名前を聞き、真依子は動揺してしまう。

 母が言う浩一というのは、まぎれもなく、さっき思い出していた、牛丼を一人で食べる女性を否定していた元彼だ。

――あんたいつの間に浩一くんと別れてたのよ。そういうことはちゃんと言ってくれないと。びっくりしたわよ。『結婚しました』なんて書いてあるんだもの。自分の娘が、勝手に嫁に行ったのかと思ったわ――

 結婚。

 その言葉を聞いて一瞬、呼吸が早くなってしまう。

「俺、ホントは、もっと若くて女の子らしい子がタイプだから、別れよう」

 浩一とは五年も付き合ったはずなのに、淡々とした口調でそう言われた。

 あれからもうすぐ三年もたつ。

 浩一が結婚をしてもおかしくはない。おかしくはないのだけれど――。

 なぜ今さら、そんなハガキを送る必要があったのだろう。

 そう思うと、一気に冷静になり、そのあとすぐ、真依子は、腸が煮えくり返りそうな怒りに満ちてきた。

「普通別れたなんて報告しないでしょ! ハガキなんか捨てちゃって! いちいち、そんな電話してこなくていいのに」
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