最後の賭け
 彼は、それまで付き合ったどの男よりも、素敵だった。

 夜景を見に行ったり、記念日には高級レストランに連れて行ってくれる。

 そんな夢見たいなデートを重ねてくれた浩一が、大好きだった。

 アパートの二階、ちょうど街灯が窓の近くにあるせいか、カーテンを閉めていないと薄明かりが差し込んでくる。

 真依子はこの明かりを見ながら寝るのが日課だった。

 月明かりとは違って、毎日変わらない人工的な明るさにどこかほっとしていた。
 
 浩一はこれを「眩しくて寝れない」と言った。

 俺のマンションに引っ越してくればいいだろう。

 いずれそうなるんだし。真依子のアパートに泊まるたびに、そう言った。

 そのくせマンションへ連れて行ってくれたことは一回もないのだから、今思うと、笑ってしまう。

 ベッドの脇に寄りかかりながら、テーブルの上に置いた空き缶をぼーっと見つめた。

 このアパートに決めた時、最初からたいして家具を買い揃えるつもりはなかった。
 
 それでも、毎日仕事から寝るために帰るようなものだから、寝具だけは気に入ったものにしたかった。

 家具屋を何件も回って探し求めたこのベッド。

 ヘッドボードが茶色く、すのこのようになっていて緩いカーブを描いている。

 ひと目で気に入った。

 少し値段は高かったけれど、大きな観葉植物の葉が描かれているベッドカバーと合わせて購入したのだった。
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