最後の賭け
以前、彼の部屋に泊まったとき、メイク落としを忘れてそのまま寝ようとしたら、大騒ぎになったことがある。
せっかく綺麗な肌なんだからちゃんとケアしなきゃ、なんてユウジはコンビニまでわざわざ買いに行ったのだ。
もちろん彼の職業病かもしれないが、それでもそんな風に大事に扱ってくれたことが嬉しかった。
部屋の前につくと、今日はなぜだか玄関先で待たされた。
五分かからないうちに、扉から顔を覗かせて「お待たせ、入っていいよ」と照れたように笑う。
「何してたの? エロ本でも隠してた?」
笑い方がいつもと違うのを見て、からかうようにそう聞く。
するとユウジは真顔で「そんなの必要ないでしょ」と言うと、キスをしてきた。
玄関にも廊下にも特に変わった様子はない。
ユウジの部屋は一LDKにロフトがついている。そのリビングの中央には、大きなガラスのテーブルとベージュのソファー、それにグリーンの絨毯。
初めて来たとき、男の人の割に、すごくセンスがいい、と思った。
そしてロフトに置いてあるベッドには、真依子の部屋にあるベッドカバーと同じものが使われている。
「一緒にいられない時も、少しは寂しさ紛れるでしょ」と、ユウジが言ったのを覚えている。
時々、ユウジは女の子っぽいことを言う。それでも、そのおかげで優しくされているのを感じたり、安心したりするんだな、と真依子は実感していた。