最後の賭け
 ほとんど同時に、さっきの無愛想な店員が、真依子のビールジョッキと、ユウジの為のおしぼりを持って来た。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

「僕は烏龍茶で」

 去っていく後ろ姿を見ながら、真依子は呟く。

「どこの新人も、なんでこんな腹が立つんだろ」

「真依子さんがなんでも出来すぎなんだよ」

 ユウジはそう言うとにこっと笑った。

 その笑顔を見て真依子は、胸のあたりでトゲトゲしていた気持ちがスーっと和らぐのを感じる。

 この感覚。この彼の居心地の良さが、たまらなく好きだった。

 お酒が全く飲めない彼が頼むのは、いつも烏龍茶。ビールが好きな真依子のために、待ち合わせに選ぶのは居酒屋で、その間、ああじゃないこうじゃないと続く真依子の愚痴を、笑顔で聞いていてくれるのだ。

「真依子さんも大変だね」

「真依子さんなら大丈夫」

「真依子さんのこと尊敬するよ」

 最初の頃は、そうやって持ち上げて、バカにしているのかと思った。

 心の中じゃ「いい年して愚痴ばっかり吐いてんじゃねーよ」そう思われているんじゃないかと。
 
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