最後の賭け
 新人、といっても、春から四ヶ月が経つ。

 もちろん、患者の前ではそんなことはしないけれど、ついつい二人の時は「ちょっと、新人」と呼んでしまうことがあった。

 最近はミスも減り、薬の説明も調剤も手際よく出来るようになって、正確さも増している。

 いい加減ちゃんと名前で呼ぶくらいはしてもいいかもしれない。

 そんな風に寛大になれるのも、旅行のことが頭にあるからだろう。

 つい最近まで、恋愛事情がこんなにも仕事にまで影響するとは、思ってもみなかった。

「中西さん、薬の在庫チェックしておいて」

 お昼から戻った彼女に、薬の注文表を渡す。

「はーい……って」

 一瞬で気づき、彼女は目をらんらんとさせた。

「真依子さんが苗字で呼んでくれたっ! あたしも成長したってことですねっ」

 嬉しいです、と叫びながら抱きついてくる彼女を、眉をしかめながら押し戻す。

「あたしはお昼休憩するから、戻るまでにチェック終わらせておいてね」

 あの様子じゃ、しばらくうるさそうだ。

 真依子は、テンションが上がっている彼女を放っておいて、ロッカールームへ向かった。
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