最後の賭け
鞄の中からA四サイズの封筒を取り出す。

 古ぼけたソファーに座ると、冷蔵庫から朝買っておいたおにぎりを二つテーブルの上に置いた。

 ユウジから渡されたパンフレットはたくさんあって、どこがいいのか、どこに行きたいのか分からなくなってしまうほどだった。

 それにユウジと一緒になら、どこでも楽しめる気がする。

 こんな浮かれた気分で候補を絞れそうにない。

 旅行なんて、大学の友人といった卒業旅行が最後だったか、それとも沙織の失恋旅行だったか。

 浩一と別れてから、そういう気分にもなれなかったから、どちらにせよ、とうの昔の話だ。

 パンフレットをよく見てみると、温泉地が七割を占めている。

 後はディズニーランドに、USJ。

 それに北海道。

 どう見ても、ユウジが温泉を推しているのはヒシヒシと伝わってくる。

「どれだけ温泉行きたいのよ」

 パンフレットを選んでいる彼の姿を想像して、思わず笑ってしまった。

 ふと気配を感じて頭をあげると、中西がドアを少し開けて顔を覗かせていた。

「な、なに?」

「これ、チェックしたんですけど、ロキソニンも注文しておいたほうがいいんじゃないかなって思って、聞きに……」

「ああ、そういえば、そうかも。メモっておいてくれる? 後で追加しておく」

 そう答えながら、おにぎりを持ってない方の手で慌ててパンフレットを掻き集める。

「真依子さん、もしかして今度の有給、彼氏と温泉デートですか」

 案の定、コイツは予想通りの反応をしてくれる。
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