最後の賭け
 併設された内科の病院の、午後の営業時間が終わるギリギリの時間、つまり夜八時頃。

 片足を引きずりながら現れたユウジの姿を今でも覚えている。

 よれよれの薄汚れたロングTシャツに、泥だらけのジーンズ。

 ボサボサの髪の毛に、擦り傷だらけの頬。

 喧嘩でもしたのだろうか。

 ドアが開いたと同時に、待っていた数人のお客もざわついたくらいだった。

 バランスを崩し歩くのが億劫そうに見えた彼に、思いっきり眉をしかめながら近づいて、真依子は冷たく言う。

「椅子にかけてお待ちください」

 彼は何も言わず、処方箋を差し出すと、ソファーの一番隅に腰掛けた。

 あとであそこも拭かなきゃ、なんて思いながら真依子は調剤室へ向かう。

 書かれていたのは、花粉症の薬と点眼、点鼻薬、風邪薬、それに湿布やら何やら、何種類もの品名だった。

 終わる時間ギリギリにこの量ですか、とパートの薬剤師までぎょっとした顔で覗き込んで来た。

 透明なガラス越しに、ちらりと彼の方を見る。

 解熱剤まで出ているのだから、高熱なのだろうか。

 ぐったりしているように見える。

 それでもあのボロボロな姿は、どういうことなのだろう。
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