最後の賭け
「うわぁ、偶然です」

 ユウジが嬉しそうににっこり微笑む中で、真依子は思わず呟いてしまう。

「あの時、肋骨折れたまま、他人のことマッサージしてたの?」

 彼いわく、その一言で真依子と付き合いたい、そう思ったらしい。

 逆に、真依子の方は、こんなやつにマッサージなんかされたくない。

 一瞬そういう気持ちが浮かんできたものの、隣でニヤニヤしていた沙織を放って帰るわけにも行かず、促されるままマッサージチェアへと座った。

  初対面のヨレヨレの姿から一転、自分と似たような白衣姿に親近感でも覚えたのだろうか。

 それとも、非力で頼りなさそうな腕からは想像もつかないほど、的確なマッサージに気を許したのだろうか。

 いや、多分この男が聞き上手なせいだと、真依子は思う。

 肩や腰をマッサージされている一時間、ユウジへのダメだしから始まり、仕事の愚痴や親への不満、おまけに何年も前に振られた元彼への未練までベラベラと話してしまった。

 後から思い返すと、話すように誘導されていたんじゃないかと疑ってしまう。

「僕のマッサージ、大体の方が寝てしまわれるんですけど。こんなに話してくれたのはあなたが初めてです。楽しかったです。またいらしてくださいね」

 社交辞令なのは分かっていた。けれども、その時からすでに、真依子にとって、ユウジは居心地のいい存在だった。
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