恋するキミの隣で。~苦さ96%の恋~


「なぁ、なんで缶コーヒー?

矢野センにとって缶コーヒーって失恋のイメージなの?」


オレの問い掛けに、矢野センは珍しく小さな間を作った。

そして、少しだけ切なそうな微笑みを浮かべて缶コーヒーを見た。


「……缶コーヒーっつぅより、コーヒーがな。

オレにとっては特別かもな。

一番落ち着く。

毎朝欠かさないし」

「あー……矢野セン細かそうだから豆にもこだわりそうだよな」

「……そうでもねぇな。

インスタントだし割と適当だよ。薄かったり濃かったり……ある意味スペシャルブレンドだけど」


小さく笑みを含んだ矢野センを不思議に思って、理由を聞こうと口を開く。

けど……

さっきまでの嬉しそうな顔から一転させて、切なく寂しそうな表情を浮かべた矢野センに口を閉じた。


矢野センだって、教師ではあるけど1人の男で。

オレなんかから見ればすげぇ大人で憧れるところばっかりだけど、そんな矢野センだってどうしょうも出来ない事があるんだ、きっと。

人知れず1人で悩んでたりするんだ、きっと。


……あの鉄壁の高遠だってそうだったんだから。

小林の事を、たくさんたくさん1人で考えたんだろうから。

小林の幸せだけを、たくさん――――……



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