恋するキミの隣で。~苦さ96%の恋~
「先生っ!わざと忘れてったでしょ!」
そう言って矢野センの座る机に置いたのは参考書。
どうやら授業した教室に忘れてきたらしい。
「あぁ、悪いな。市川」
「本当だよ。しっかりしてよ。しかもそっちがあたしのだし」
「あれ?いつ入れ替わったんかな」
矢野センの悪戯っぽい笑顔に、女子生徒は呆れたように笑ってから矢野センの持つ参考書を取り上げる。
「おまえの苦手なとこに説明つけといたから」
「……あたし数学で苦手なとこなんかないし」
矢野センってば優しいな~なんて思ってたんだけど、その女子生徒は憎まれ口を返す。
その様子に矢野センも楽しそうに笑ってるけど……随分気の強い女だよな?
その後は別に何を話すわけでもなく、女子生徒は矢野センに背中を向けた。
そしてその生徒がドアに手をかけた時……
「市川」
「?!」
矢野センが投げた小さな飴が弧を描いて女子生徒の手の中に収まった。
「びっくりするじゃんっ!」
「んなもんでケガなんかしねぇから安心しろ」
「……なに?」
「そうだな……あぁ、今夜彼氏が部屋に来てくれ……」
「ばかじゃないの?」
矢野センの言葉を遮った女子生徒は、呆れながらも嬉しそうで……その笑顔に、オレはドアが閉められてからもずっとドアを見つめていた。
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