恋するキミの隣で。~苦さ96%の恋~


「先生の声だ……」

「え?」


高遠の声に引き寄せられるように歩いていく小林の後にオレも続く。

近付くにつれてはっきりと聞こえてきた声は確かに高遠のもので……だけど、その話し相手と内容が小林の脚を止めた。


「なんかすみません。遠回りじゃないですか?」


高遠の話し相手は、音楽の馬場だった。

足元を見ると、片足を引きずっていて……

高遠の視線もそこに向けられている。


「大丈夫ですよ。それにその足で送らないのも気が引けますから。

まぁ、階段から落ちて捻挫ならよかったって言うべきですけどね」


察するに、怪我をした馬場をそのままに出来ず送るって感じか?

別に何でもない事だけど…


小林にとってはそうではないようだった。

隣で高遠と馬場に視線を送る小林の表情が、感情を無くしているように見えた。


そして……無表情な口からぽつりと言葉をこぼした。


「あたし……先生の車乗った事ないのにな」


……―――――


オレ達の見つめる先で、馬場を助手席に乗せた高遠の車が走り去る。


高遠達からは暗闇に隠れるオレ達は見えないようで、気付く様子もなかった。


静かに去っていく車のバックランプを見つめる小林の表情が、ひどく表情を無くしていて……

オレは歯を食いしばって手を握り締める。


それで我慢できるハズだった。

……いつもなら。


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