愛を運ぶケーキ屋さん
昨夜の彼女は私に”まだまだね”と言った後、それ以上はケーキに手を付けず帰って行ってしまった。
この言葉は、結構な衝撃を私に与えた。
「まだまだ、か····」
ケーキに込める思いがまだまだということだろうか。
短く溜息を吐けば気分転換に新しいケーキの作品を考えようと、あの下に広がる賑やかな場所へ出掛けることに決めた。
幸い今日、店はお休みなのだ。
緩やかな下りを降りて、複雑な裏道を抜ければ一変してそこは賑やかさを増す。
人、建物、店、声、光、色。
様々なものが私を刺激し、想像力を膨らませながら自然と気分が高まるのを感じる。
「····あ」
すると、昨夜の彼女が裏通りに入っていく姿が見えた。
咄嗟に後を追えば、近付くにつれ裏通りから何やら怒声が響いてきた。