愛を運ぶケーキ屋さん

「珈琲をお持ちしました」

テーブルへ置くと男性は直ぐに珈琲を飲み始めた。

その光景を見ていると何だか嬉しくなり、自然と口元が緩んでしまう。

不意に、彼と目が合った。

「····俺は、藤崎 徹(フジサキ トオル)だ。この店には、たまたま入っただけだったんだが雰囲気と珈琲が気に入ってしまってね。今じゃ、毎日来たいと思うくらいだよ」

「嬉しい限りです。私はハルカワと申します。この店のスタッフと店長をさせて頂いています。」

「一人でやっているのか。それはすごいな」

藤崎さんとの会話は弾み、とても楽しいものとなった。

「しかし最近、妻と喧嘩してしまってね。仕事ばかりの俺に文句ばっかり言ってきて、つい言い返したら大喧嘩さ。もう5日は話していないなぁ」

藤崎さんは悲しそうに手元にある分厚い資料に視線を落とした。

「ここ数年、ぎくしゃくし続けてたからな。離婚ってことになるかもしれないな」

「·····」

独り言のように呟いては黙り込んでしまった彼から静かに離れ、私は調理場へ向かった。
< 5 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop