愛を運ぶケーキ屋さん

数分後、黙々と資料を読む彼の前に一つのケーキを置いた。

「····これは?」

突然出てきたケーキを見ながら藤崎さんはキョトンとしている。

「私、ハルカワからのサービスでございます。ベルギー産の固形チョコにミルクを加え弱火で約三時間かけて溶かし、また別のベルギー産のチョコを混ぜて作ったチョコレートのスポンジケーキ上に溶かしたチョコをかけ、約一日かけて固まらせたものです」

「そんなに手間をかけて作ったケーキがあるのか····」

「そのケーキの名は Period cake (年月) 」

ケーキ名を聞き、驚いたようにこちらを見る藤崎さんを優しく見返すと言葉を続けた。

「このケーキも、珈琲もたくさんの長い時間を経て完成したものです。私たちも同じように長い時間をかけ、成長し、生きてきました。ただ、一人ではなく誰かに支えられながら。時には家族、友人、そして····愛しい人に 」

私の言葉を静かに聞いている藤崎さんはケーキを見ながら小さく肩を震わせている。

テーブルに小さな涙を落として。

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