愛を運ぶケーキ屋さん
「····ぜひ、今度は藤崎様の奥様といらして下さいね」
私は独り言のように、静かにそう呟くとカウンターに戻り、食器を片付け始める。
藤崎さんは数十分くらいだろうか、嗚咽を上げることもなく静かに涙を流し続けていた。
奥さんのことやたくさんの過去を思い出しているのだろうか、私はそれ以上は何も言わず、今はただ彼をそっとしておくのが一番だと判断した。
しかし、藤崎さんは唐突にケーキを一口、咥内に含んだ。
瞬間、優しく笑い再度涙を頬に伝わせ、誰に言うでもなく声を漏らす。
「···嗚呼、やっぱりうまいな」
そう言葉を残して。
ーー···