恋に落ちるなら君がいい
「ん…」
深夜に小さな物音で目が覚めると、時計の針はもうとっくに日付を変えていた。
楓社長が帰宅したのかもしれない。
こういう時は「おかえりなさい」と声をかけにいくべきなのだろうか…。
婚姻届けを提出した日から顔を合わせていなかったので、どんな風に声をかけていいものかも分からない。
そもそも婚姻届けを提出した日からこの数日、彼が一度でも帰宅したのかも知らないくらいなんだ…。
暫く、考え事と睡魔の間を行き来しながら体を起こした。
会っていなかったとしても、生活費をいただいて名字まで戴いてしまってるのだ。
挨拶くらいはしなくてはならないのかもしれないと思い直したんだ。
リビングへと続く扉を開けると、キィィっという音に反応して、彼が振り返り少し驚いた顔をして私を見た。