恋に落ちるなら君がいい
「俺は、彼女が俺の元に戻ってくるなんてそんな事は考えていない。
彼女が幸せなら見返りなんて必要ない。」
「そう…
そんな綺麗事を言えるのは、あなたの心がまだ綺麗な証拠ね。
でもそれは間違いだわ。
あなたもまだまだそのか弱いひよっこ社長。
本当の荒波に呑まれるのはこれからよ。
でも、そうなった時にあなたの胸に残るのは後悔だけ。
そうした時、初めてあなたも私の気持ちが分かるわ。」
「あなたは、想像以上に優しい女性だな。
あなたにあんな事をした俺にわざわざ、そんな忠告をしに来るなんて。」
皮肉な笑顔は崩れない。
彼の腹の内は掴めない。
以前、彼の瞳と慧の瞳は似てる…なんて思ったけれど…
それは私の勘違いだったようね。
「優しさ…?そうね。今のところはね。」
そう
慧がまだ逃げている間はね。
「でも、覚えていて。その時がきたらあなたも
この会社も終わりを迎える。
福富の名前がなくても
私はあの三影財閥の娘よ。」
そう言い立ち上がる私に
「その時は全力で闘います。例え俺にはあなたに敵う力がなかったとしてもね。」
「楽しみにしているわ」
微笑み
彼の箱庭から外へ繰り出し、車に乗り込むと
不思議なほど
心が震えていた。
恐怖?
悲しみ?
不安?
どれも当てはまらない。
慧がいなくてこんなにも不安で仕方がないのに…
この震え。
私は今
楽しみを見つけた幼い子供のように、わくわくしている。
初めて
飾らずに
飾られずに
誰かと話しをした。
それは私を
とても不思議で、心地よい気分にさせた。