恋に落ちるなら君がいい
「それで…
私にどうしろと?」
視線をそらしたまま聞いた私に
野嶋君は小さく「別に…」と呟いて
暫くの沈黙のあとで
また
口を開いた。
「本当は、もう少し後で話そうと思ってたんだ。
橘は俺に気づいてなかったみたいだし。
もう少し仲良くなってから切り出そうと思ってたんだ。
でも
そんなことしてる間に、橘が突然さ…
社長と結婚するから。
…
で、社長は知ってるの?」
ただ真っ直ぐに聞いてくる。
その質問の真意が掴めなくて
探るように
野嶋君の目を見つめた。
「それを聞いてどうするつもり?」
「愛の無い結婚なら今すぐやめちまえ。
俺が愛のある結婚を教えてやるから」
少し照れ臭そうにして一瞬、視線を流したものの
すぐにまた
私の瞳を捉える。
「どういう…意味?」
「俺なら
橘の全部を受け入れられるから
言ってるんだろ?
それくらい…
察しろよ」
突然のプロポーズ。
それは
私にとって名無しのごんたさんの正体が社長だった。事よりも
何十倍
何百倍も
ショッキングな出来事だった。
私の過去を知っている人がいた。
それが
1番恐れていたこと。
思い出したく無い思い出が
濁流の滝となって
身体中を駆け巡る。
封印していた思い出が
鮮明に目を覚まそうと震え出している・・・
まるで私の歩いた足跡を確実に重ねてゆっくりと
この心に近寄ろうとしてくる。
心が壊れてしまいそうなほど
甘くて甘すぎる
大好きで大嫌いな大切な・・・
過去