恋に落ちるなら君がいい


「さあ、これでようやく散歩に行けますね」

微笑む彼女に微笑みを返す。

たぶんこれで間違いはない。


周囲の目を意識して、背筋を伸ばし歩く俺の1歩前を、後ろに手を組んで歩く彼女。


時折、些細な会話の中で振り返り俺を見る。



何もかもが初めてなのに


不思議なことに何もかもに懐かしさを感じる。




もしかしたら記憶にないだけで

俺にもこんな風に静かに

目的地もなくふらふらと歩いた経験があったのかもしれない。



「君は…散歩を楽しんでいるかい?」

何気なく聞いた一言だった。

すると彼女は不思議そうな表情で振り返り

「楽しむための散歩なんでしたっけ?」そう聞いた。



それがなんとなく

胸をチクリと痛ませて

なんとなく…

寂しい気持ちにさせた。




望んでいた通りの返事が返ってきたはずなのに

思い通りにいかないような腹立たしさにも似ている。


だから…


他人と関わるのは本当に面倒くさい。



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