恋に落ちるなら君がいい


「し、社長⁈あの…水無月…奥様なら今は小休憩中で、自販機コーナーにいると思います」

一人の女性社員の要らない情報に頷く。


彼女がどこにいるかなんてどうでもいいことだけど、報告をされたからには仲の良い夫婦として、彼女に顔をださないわけにもいかない。


「ありがとう。」

そう伝えて自販機コーナーに向かうと

遠くから男女の声が聞こえてきた。


女性のほうは、たぶん彼女の声だろう…。

その声色から楽しげな会話をしているようにも感じられず

ゆっくり近づいて様子を伺うと

壁の影に見え隠れする彼女の困り気な顔を見つけて息を飲んだ。


「彼女でも…あんな顔をするのか…」


どうやら会話の内容としては、相手の男にしつこく食事に誘われているようだ。




社長の妻を食事に誘うなんて良い度胸をしている。と、思いつつも

もしかしたら、俺たちの結婚がそこまで社内に知れ渡っていないのかもしれない不安が脳裏を横切った。


「早く式をあげて皆に承認されなければ…」


子孫を残すことができなくなってしまう。



亡き父と交わした約束を守らなくてはならない責任が…俺にはあるんだ。



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