恋に落ちるなら君がいい


「制服が皺になってしまうと思うんだが…」

呟いた声に反応したのか

うっすら瞼を開けた彼女が

ぼんやり俺を見つめ微笑む。


「慧君…来てくれたんだね」









慧?


俺は

楓であって、慧という名ではない…。








慧?

誰と勘違いしてやがる。


「おいっ」

声をかけた時には彼女はまた眠っていた。


よく見れば呼吸が荒い。


熱でもあるのか?


指先を

彼女にのばして見たけれど

すぐにその手を引っ込めた。

自分にメリットがあれば少しくらいは触れることができても

他人に…

触れるのが嫌なんだ…。



幼い頃のトラウマのせいで、人に触れることができないのだ。


暫く、肩で息をする彼女をぼんやり眺めていたけれど

静かに部屋を出た。


彼女も大人だ。

子供ではないのだから体調が悪かったら自分でなんとかするだろう…。



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