恋に落ちるなら君がいい
「失礼します。」
ペコリと短髪を茶色に染めた頭をを下げてヘラっと笑う彼に
とても次期社長と呼ばれるような風格はない。
本当に彼がこの方の息子なのかと、自分の目や耳を疑ってしまう。
「慧一、お前に紹介したい男がいる。」
そう言われて俺は立ち上がり、そのまだまだ青くさい青年に向き直り軽く頭を下げた。
「水無月楓と申します。」
胸ポケットから名刺を取り出し差し出すと彼はそれを受け取り
見もせずにスーツの上着のポケットにしまう。
「楓さん?よろしく」
にっこりと愛嬌のある笑顔を見せれば失礼な奴なのか人懐っこいのかも分からない。
「そうだ、楓君は最近結婚したばかりでね。式には息子も呼んではもらえないか?」
「はい。光栄です。」
すると、結婚という言葉に反応した慧一がつまらなさそうに俺の顔を見た。
「楓さんも親に決められて?」
「…いや。」
楓さんも。という事は彼はそうらしい。既婚者なのか予定者なのかは分からないが、親に決められた婚約者がいて、それを面白く思ってないようだ。