恋に落ちるなら君がいい


「申し訳ありません。ちょっと…突然体調が悪くなってしまって…」


涙を堪えるために口をハンカチで覆い俯くと


楓社長が慌てて2人に謝罪をする。




楓社長に申し訳がない。

ちゃんと

演技もできなかった。



「楓さん…ごめんなさい。

少し、風にあたってきます。」


「ああ…分かった。無理はするな。」


心配そうな声を最後まで聞けずに

逃げるように外に飛び出して

みんなから見えない裏通りまで来ると


我慢していた涙が溢れ出した。



こんなはずじゃなかった。


もし

もう一度慧に会えるなら…




私は幸せだよって

幸せいっぱいの笑顔で

伝えようって




慧が姿を消したあの日から


ずっと


そう決めていたのに…





本当に慧が目の前に現れた瞬間


そんな綺麗事なんか見せる余裕も無かった。




慧を目の前にして


慧の奥さんを目の前にして


私…



物凄く


辛かった。


嫉妬した。



なんで?って…


思った。



今やっと


野嶋君の気持ちが分かるのと同時に


私はまだ


慧の事が好きなんだって…


忘れられないんじゃなくて

忘れたいんじゃなくて



ただ


好きなんだって…



自分の気持ちに気付かされた。


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