強い女
真っ暗な帰り道、会社借り上げのアパートまで30分の道のりをひたすら歩く
全国展開のファミレスチェーンである司の勤め先は飲食業界では給料も高く比例して仕事も多い
店に配属されて初めて教えられたことは「仕事中は手と足を止めるな」
実際やってみると手足を止めずに動き続けるには頭をフル回転させなければならず、
最初の3ヶ月は心身ともに疲れ切っていた

…それから3年
仕事も自分から見つけて動けるようになり、
アルバイトへの指示も出せるようになった

同期や親しい先輩方からの情報収集も欠かさないし
マニュアルの復習にも余念がない

これだけ努力してもほめ言葉の一つも出てこない直属の上司に苛立ちがこみ上げる

この半年店長の口から聞いたのは小言と説教、あとはため息のみ
あの相馬だって司の努力ぶりには時々驚くのにもかかわらずだ

他店の店長は誉めてくれるのに…
なのになんであんたは…!

しかも店長の平野の評価は地区を越えて本社からも視察が来るほどの高評価なのだ

「仕事が出来る人間に認めてもらえない」

それは司にとっては無視できない汚点であり、屈辱だった
燃えるような瞳で路地を睨みつける

今なら目線だけで人を殺せそう…

物騒なセリフが浮かんだ瞬間
目から熱い水が溢れた

「っ……ぅぅ……ふっ……」

歯を食いしばってひたすら歩く
嬉しかった後の叱責で反動が大きかったのか、

…嫌なことを思い出した
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