セピア‐ため息の行方
  とその時丁度部屋のドアをバタンと開けて若い刑事が入って来た。そして峻甫を一瞥(いちべつ)すると静かに椅子に腰掛けた。


「さっき病院から連絡が入った。ちなみにあの女性は車とぶつかった際に、全身を強く打った時の衝撃で体の随所に打撲傷を負っただけで、奇跡的に命を取りとめたと言う事だ。だが依然として意識がまだ戻らないまんまなのだそうだ」


  その話を聞いて
「い・命は助かったのですね?!」
  と言うとホッと胸を撫で下ろした。そして同時に峻甫はその安堵感で更に襟(えり)を正した。


「良いかね。これで君は業務上過失傷害及び道路交通法違反に問われる事になる。これから順に説明をして行く事にするからよおーく聞くんだよ。良いね」


  そう言われて峻甫は自分が犯した罪をしっかりと受け止めて、社会人として精神誠意被害者に償わなければと決意を新たにした。


  ふっと母親の顔が浮んだ。幼い頃に病気で父が亡くなってからは女手一つでさまざまな苦労をして一生懸命に僕を育ててくれた母。なのに僕はこの年になって母にこんな形で辛い思いをさせる事になるとは夢にも思わなかった。思えばこの年まで僕はただ忙しいと言う理由だけで、母に何一つ親孝行も出来なでいた。
< 11 / 291 >

この作品をシェア

pagetop