セピア‐ため息の行方
  その蛍子と峻甫の会話を聞いていた花梨は『そう言えば私って、俗に言う『結婚適齢期』を過ぎているのに、過去の恋愛経験が全くなかったな?』と改めて思った。


「ねえ、蛍子さんちなみに恋愛ってただ一方的に相手を思うだけでは、成立しませんよね?」


  そう聞かれた蛍子は
「そりあそうよ。ただ相手を思っているだけでは、成熟した大人同志の恋愛じゃないし、お互いに身も心も求め会うのが自然の摂理ってものなんじゃないのかしら?ねっ、壺田さん!」
  と蛍子から話を急に振られた峻甫は


「は・はい。そうですね」  と慌てて応えるとすぐさま顔を赤らめた。


『じゃあやっぱり私って健康的な一般的女性の精神状態を持ち合わせてない?って事になるんだ』と思って、それはそれでまた違った意味で花梨の心の中は複雑に揺れ動き、たちまちのうちに凹(へこ)んだ。
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