セピア‐ため息の行方
  そして部屋を出て行く二人の背中越しに
「啓太、ちゃんと胡桃ちゃんをお部屋まで送り届けるのよ」
  と有莉禾が言った。


  病院を出ると外はやはり寒かった。だがその寒さは雪国育ちの胡桃にはたいして気になる寒さではなかったが、それでも流石に頬を撫でる微かな夜半の風と空気はひんやりとして冷たく感じた。


  月明かりの中を久し振りに啓太と一緒に並んで歩くと、啓太の背丈はとっくに胡桃を追い越していた。ちなみに啓太と会ったのは確か自分の結婚式の時で、その時啓太は中学2年生だったから背丈が胡桃よりかだいぶ小さかった。でもあれから確実に6年もの歳月が流れている。だからしばらく会わないうちに啓太の背丈が急成長したのだろう。既に胡桃より20センチもひょろりと高い。長身である。だが母親の有莉禾はむしろ背が低い方だ。だから多分父親似なのだろう。


  夜空を見上げ瞬(またた)く星を見ながら
「あら。都会の空もまんざらでもないのね。意外にも星があんなに見えるわ」
  と胡桃が言うと
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