セピア‐ため息の行方
  招き入れられた部屋の中には自分が生まれ育った秋田県の田舎で見た懐かしい囲炉裏(いろり)があった。そして天井からは細い竹の棒がぶら下がっていて、途中に木で作られた魚のモチーフが付いていた。そしてその下には木製の蓋(ふた)を被(かぶ)せた黒い鉄鍋がかけられていて、その蓋の隙間からは白い湯気が立ち上っていた。


  ちなみに紛れもなく部屋全体からは大正ロマンのニュアンスが漂っていた。でも調度品の選び方にセンスを感じるし、それにそのどれもが高価そうに見える。だからこの部屋からはだいぶ裕福な暮らし振りが髄所に窺(うかが)えた。


「さあさ寒かったでしょう。キリタンポが煮えているのよ。丁度食べ頃だと思うわ。さっコートを脱いで其処に座って頂戴な」
  と言うと李は花梨のツイードのコートをハンガーにかけ部屋の隅にあるフックに吊るした。


  尚、花梨がゆっくりと部屋全体を見渡すと此処は幼い頃自分が住んでいた秋田県の古い佇(たたず)まいの家ではなくて、むしろもっと古い時代の印象さえ受けた。

< 18 / 291 >

この作品をシェア

pagetop