セピア‐ため息の行方
「そうですね。私は現世でちっとも『他の人の為に生きる』って事なんかまるで考えずに生きてきてしまった気がします。ただ両親や曾おじいちゃんの庇護をあたりまえだと思ってのほほんと生きて来てしまったから、多分最近の私の心の深い部分で良い知れない空しさを覚えていたのだと思います」


  じっと花梨の話を聞いていた李の表情は一見して推し測る事が出来ない位に哀しそうだった。だが訴えかけるようなその瞳(め)を見て花梨は李の心の内を瞬時に悟った。そうなのだ。李にとっては自分の子供が嫁いで子供を生んだら、自分の孫である花梨や啓太にしてあげたい事がきっといっぱいあったはずだ。だが李は若くして胃を患(わずら)い死んでしまったのでついにそれが現実には叶わなかった。


  李は孫の顔を見る以前に亡くなってしまったのだから。それが出来ないまま死んで逝かざるを得なかった李はどんなにか辛い思いでこの世を去って逝った事だろう……とそう思うと花梨はただただ胸が締め付けられる思いで一杯になった。多分その思いが花梨と李を引き合わせたのかも知れない。これは曾おじいちゃんの思いも幾分かはブレンドされている事なのだと思う。そう考えると花梨はそれ以上何も言えないような気がした。


「あのね、李さん私が驚いたのは人間って死んだら、もうその時点で全てが終わりなんだって私は漠然と考えていたんです。なのに李さんのように死んでも尚、こうして孫の為にと言う大義名分のもと必死で勉強をしてガイドスピリットの資格試験を受けると言うシステムがあると知ってなんか不思議な気がしたんです」
  としんみりとしながら花梨が言うと
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