セピア‐ため息の行方
「でも私必死で勉強をしたわ。孫である花梨ちゃんと啓太君を少しでもサポート出来ればと思って。たとえば人って誰かの為に尽くす事に生きがいや喜びを感じるでしょう?それはある意味とっても素晴らしい事なの。それが私のように現世で叶えられなかった者にとっては尚更ね。ねえ、花梨ちゃんあなたはこう言う私の気持ちが理解出来ない?」
  そう李に聞かれて


「そうですね。私は現世でちっとも『他の人の為に生きる』って事なんかまるで考えずに、両親や曾おじいちゃんの庇護をあたりまえだと思ってのほほんと生きてきてしまったような気がします。そんなだったから多分私の心の深い部分で良い知れないほどの空しさを覚えていたのだと思います」 

 
  その花梨の話をじっと聞いていた李の表情は一見して推し測る事が出来ない位に哀しそうだった。訴えかけるようなその瞳(め)を見て花梨は李の心の内を瞬時に悟った。そうなのだ。李にとっては自分の子供が嫁いで子供を生んだら、自分の孫である花梨や啓太にしてあげたい事がきっといっぱいあったはずだ。


  だが李は若くして胃を患(わずら)い死んでしまったのでついにそれが現実には叶わなかった。李は孫の顔を見る以前に亡くなってしまったのだから。

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