セピア‐ため息の行方
  するとその子はやや気だるそうな感じで
「おはようございます。私は長伊利雛子です。理由あって伯母の長伊利蛍子さんトコで居候させて頂いてます」
と小さくポツリと言った。


 そう言ったその雛子と言う女の子はやや角ばった顔で痩せ気味の体つきをしていた。でもって全体的に何とも良いようのないアンニュイな感じの雰囲気を醸(かも)し出していて、しかも目の表情が驚く程に暗くそして鋭かった。


  そしてこの二人の装いもやはり着物である。でも着物の趣味が李とまったく違う。ちなみに蛍子は矢羽の紺絣(こんがすり)であった。紺絣(こんがすり)と言うのは本来藍染の事ではないのだろうか?と花梨はふっと思いながら、今度は雛子の方を見ると、雛子の方は友禅地で花手毬の中に小さな兎や色取り取りの桜や菊の花などが描かれた柄の着物である。それは中々艶(つや)やかな感じのする模様と色だった。


 まあ17歳の年齢からすればこう言う少しハデ目の柄が妥当なのではないかなとも花梨には思えた。おそらくその着物は蛍子さんが10代の時に着たものなのだろうと思われた。聞くところによるとやはり雛子をこの世界に呼んだのは生前、雛子の事をとても可愛がってくれた父方の伯母さんであるこの蛍子さんだったのだそうだ。
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