セピア‐ため息の行方

第１章‐取り調べ

　　壺田峻甫（つぼた しゅんすけ）３０歳。仕事は食材を各地域のお店に配達する業務についている。この不況で会社側が大幅な人員削減を行ったために、御多分に漏れずその分のノルマの皺寄（しわよ）せが、人員削減を辛うじて免（まぬが）れて残った峻甫達に課せられて、毎日激務が続いていた。そんなだったから最近の峻甫は例年以上に体がクタクタに疲れきっていた。


　　早朝の４時過ぎから６時位の間に家を出て、１日８時間労働の上にサービス残業も有りのそんな生活を送っていたので、峻甫もここのところ暫くは睡眠不足が続いていた。


　この時まさに峻甫の瞼（まぶた）は閉じようとしていた。そして峻甫は小刻みに襲って来る睡魔と必死になって戦っていた。もう少し先に居眠りパーキングがある。少しの間眠るだけで目がシャキっとしてだいぶ運転がラクになる事は経験で解っていた。だから峻甫は其処で少しの間仮眠を取ろうとしていた。


　　が、しかし皮肉にもその居眠りパーキングの数メートル手前の横断歩道で、ついに耐え切れなくなってしまった瞼（まぶた）が一瞬閉じかけたその時、峻甫は不覚にも青信号で渡っていた若い女性を撥（は）ねてしまったのだ。居眠り運転の上信号無視である。峻甫はその場で凍りつき顔が一瞬にして蒼白になった。


「ど・どうしょう。ぼ・僕は人を轢（ひ）いてしまった？！」