セピア‐ため息の行方
  でも花梨は雛子に対して実際会って見て悪い印象を持たなかったのは事実である。李が指摘したように雛子とはむしろ仲良くなれそうな気がしていた。かなり頻繁に使われる俗説だけれど『人は人によって傷つき、又人によってその傷が癒されるものである』と言う一節がふっと頭に浮んだ。


  まあこの言葉はかなり的(まと)を得ていると花梨は思う。だとしたならばこうした予期せぬ人と人との出会いも、花梨にとってはより大切に扱うべきなのでは?と思えた。たとえその出会いがこのような予想もしなかった場所での出会いだったとしても。


  多分雛子も本来持って生まれた特殊な脳力に自分自身では気づけないまま、リストカットを繰り返していたのだと思う。だから折角持って生まれた脳力に全く気づかずに一人悶々としているだけの自分の姪のもどかしいそんな姿を見て、不憫に思った蛍子は雛子が本来持って生まれた特殊な脳力に気づかせそれを磨き他に活かして欲しいが為に、この世界に呼んだのだろう。それは多分李が花梨を此処へと導いたのと同じように。


  ただ雛子の場合は自ら自分を傷つけて死の淵を彷徨っていて、その延長線上でもってこの世界に導き寄せられた。また花梨は交通事故に遭(あ)い、その事がきっかけで李がこの世界に導き寄せた。まあ双方がこちらに呼び寄せられた理由はそれぞれ違うが、本来持って生まれた特殊な脳力に気づかせようと李と蛍子が心を砕いた点は二人共に共通していた。
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