君に贈るエピローグ
修学旅行2
羽田空港には八時十五分に到着し、私達は集合場所の第二ターミナルへと向かった。八時半になり各クラスで点呼を取り終わると、飛行機のチケットが配られた。大きな荷物は前日現地に送ってあったから、私達は手荷物ひとつで搭乗口へと向かった。
私は飛行機に乗るのが初めてだったので、機内に入るときょろきょろとあたりを見回した。チケットを見ても席が良く分からず、客室乗務員の女性に聞くと、親切に席まで案内してくれた。私は幸い窓際の席になった。
九時二十分頃になると機体がゆっくりと動き出し、間もなく滑走路から離陸した。機長のアナウンスとともに歓声と拍手が沸き起こる。
地上がまるでジオラマのように小さく斜めに見え、暫くすると機体は水平飛行に移り、シートベルト着用のサインが消えた。
普段は土手から眺めている空の上を飛んでいる。雲が手に届きそうなほど近くに見え、私はいつの間にか不思議な感覚に陥っていた。
窓外を眺めていると、先程の客室乗務員の女性が飲み物を持ってやってきた。
私はオレンジジュースを受け取りテーブルに置くと、いつも手帳に挟んで持ち歩いている、美奈子とふたりで撮った写真を取り出した。
美奈子、これから北海道へ修学旅行だよ。私、美奈子の分まで楽しんでくるからね。
私は写真の中の美奈子に、心の中で呟いた。

一時間程すると再び機長のアナウンスが流れ、雲の切れ間から津軽海峡が見えてきた。
「ただいま機体は津軽海峡上空を飛行中です。これから二十分程で函館空港へと到着します」

私達は北の大地へと降り立った。
北海道は思っていた以上に涼しく、私は空港に着くと腰に巻いていたパーカーを肩から羽織った。
函館から函館市街まではバスで移動。車中はすでに宴会状態である。
函館駅に着くと、自由行動のため解散となった。
昼時ということもあり私達六人は、予め調べていた、どんぶり横丁の『茶夢』という食堂へと向かった。
「『茶夢』は辻仁成の小説、『愛をください』のモデルになった店なんだ。海鮮丼とイカが美味いらしいぞ」
隣を歩いていた明彦が振り返って、皆に説明した。
「ふーん、山口君って、そういうの詳しいよね」
結衣はふんふんと頷きながら言った。
「でも、ここがいいんじゃないかって初めに言ったのは、輝なんだぞ」
「輝、それ知ってたの?」
「知ってたに決まってるじゃーん!」
「またぁ、嘘ばっかり!」
結衣が持っていたしおりで、輝の頭を叩くと、一斉に笑が起きる。
「ここだ!」
「わぁっ、可愛い看板!」
純也と博美がはしゃぎながら店の戸を開け中に入った。
すでに他の生徒達も何人かきていたので、何が一番美味しいのかを尋ね、私達は海鮮丼を頼むことにした。
「やっぱり北海道なんだから、海鮮丼でしょ」
輝がそう言って、六人分の海鮮丼を頼み、私達はカウンター席に並んで座ると丼がくるのを心待ちにした。
「ねぇ、お昼を食べ終わったら、次はクルージングだっけ?」
博美がしおりを捲りながら純也に聞く。
「そうだよ。その後は、君達が楽しみにしている明治時代の仮装!それからは市電で移動して、五稜郭タワー」
「仮装じゃないわよ!純也ったら、私達のこと馬鹿にしてるでしょ?」
「別に。楽しそうでいいじゃないか」
そうこうしているうちに、待ちに待った海鮮丼が運ばれてきた。
「わぁっ、凄い美味そう。いっただきまーす!」
輝がさっそく丼に手を付けた。
「本当、美味しい!輝、ここにして正解!」
「うん。美味いな」
「美味しい!」
皆、口々にそう言った。
私は持ってきたデジタルカメラで丼を撮影した。
「凛子、丼まで撮ってるのか?」
「うん。後からアルバムで見たら、あの時何を食べたんだっけ?って、思い出せるでしょう。はーい、みんなこっち向いて」
私はそれぞれに丼を片手に微笑む五人を写真に収めた。
「ねぇ、明彦、ウニあげる。私、小さい頃から、ウニ駄目なの」
「そうなのか?でも、ここのは美味いぞ。せっかくなんだから、少し食べてみろよ」
「本当に?じゃあ、ちょっとだけ食べてみようかな」
私はウニに醤油を付けて一口食べてみた。
「うわっ!甘くて美味しい」
「なっ、美味いだろ」
私達はあっという間に丼を平らげ、次の目的地のベイエリアへと向かった。
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