Rain
「…はい」

そんな事を考えている私の前に、湯気が上がっている熱々のダージリンが置かれる

「…ありがとうございます」

私は熱々のダージリンが入ったマグカップをそっと持ち上げ、掌で包み込んで、熱を感じた

その横で、先生は自分の分の珈琲をただただ無言で飲んでいる


私は、そんな先生を横目で見ながら、小さく問いかけた

「……先生って、ダージリンも好きだったんだね…」

私の、その問い掛けを聞いて、先生は珈琲を飲むのをやめて、マグカップを置いた

そして、真剣な目でカップの中の真っ黒な珈琲をじっと見つめた後、答えた

「………元カノが…元カノが好きだったから。だから俺はダージリンなんか、たまにしか飲まないくせに、今でも見かけたら買っちゃうんだ…」





私は、それを聞いて返事する事が出来なかった

先生の顔を見る事も出来なかった


だから私も、ただただ手元のマグカップに入ったオレンジ色のダージリンを眺めていた
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