Rain
その事を報告するために、僕は久々に壱成を学食に呼び出した




壱成とは学部が一緒なのだから、顔を見る事はよくあったけれど、あれから口をきいた事は1度も無かった

ましてや、あれから僕は、授業に出るようになっても、ゼミやサークルには一切顔を出さなかった

だから余計、会話をする機会はなかった




久々に二人で顔を合わせた僕と壱成の間には、これでもかって程の気まずい空気が流れていた

そんな中、先に口を開いたのは僕だった

「…俺、教師になるよ」

壱成には、教師を目指す事に決めたのも、猛勉強して教員免許を取得したのも、北海道に内定を決めたのも、何も言っていなかった

ただ僕は、美雨の事が本当に大好きだった壱成に対しては、どんな謝罪の言葉を並べ立てるよりも、この報告をするのが一番良いと思ったのだ

案の定、壱成は、鳩が豆鉄砲食らったような顔をして僕に問い掛けてきた

「…へっ?【副業で】って事か?」

「…いや【本職で】だ。だから画家にはならない」

「…嘘だろ……?お前めっちゃ成績よかったじゃねーか!俺らの学年の期待の星とか言われてたのに、何で……」

「……教師になるのが美雨の夢だったから。
それを叶えてやるのが俺が美雨に出来るせめてもの償いだと思ったんだ……それに…俺、元々そんなに画家になりたかった訳でもないしな」

「…マジかよ……」

「…あぁ、もう教員免許も取ったし、北海道の美術の専門の高校に内定も決まってる」

僕がそう言い切ると、壱成は驚いて、言葉も出ないようだった

そんな壱成を見ながら、僕は続けた

「…て、言っても、俺は、人見知りだし、無愛想だし、感情の表現が下手だし、正直、教師なんて職業は一番、向いてないと思うけどな。
……でも、やってやる!それが多少なりとも美雨の為になるっていうなら、何でもやってやる!
……つっても、美雨程、良い教師にはなれないだろうけどな」

そう言って、僕が小さく笑った時だった

「………お前は絶対、良い教師になれる…!………確かにお前は無愛想だし、感情の表現も下手だけど………でも、お前は誰よりも優しい。
誰よりも優しくて、人の悩みを自分の事のように考えて、じっくり話を聞いてくれる。
それに何より、お前は誰よりも傷付いた。
でも、その分、誰よりも強くなったと思う。
お前……変わったよ。
美雨が生きてた頃、美雨に八つ当たりしてたお前とは違う。
…だから、お前は誰よりも良い教師になれる!絶対に!」

壱成は僕を見ながら、そう強く言った

「…壱成……ありがとう…」

僕は笑って、壱成に礼を言った

それから僕と壱成は、まるで会話してなかった期間を埋めるかのように学食が閉まるまで話続けた
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