Rain
「えっと、ここが学部棟。授業はここでやる割合が殆どだったかな?」

「で、ここがゼミの教室。
サークル部屋の次に俺達の溜まり場になってた所。
ゼミのメンバーは皆、かなり仲良かったよ」

「で、ここが図書館。
俺は頭痛くなるし、嫌いだったけど、雪は割と好きで、たまーにいたイメージあるな」

「で、ここが学食。俺と雪が仲直りしたのもここだったなー」

そうやって壱成さんは先生との思い出の話を交えつつ、色々な所を紹介してくれた

…今はいない

でも、当時、先生は確かにここにいた





「んで、最後にー……ここが部室棟。
俺達のサークル部屋もこん中にあるけど見てく?」

「で、でも……勝手に入って大丈夫なんですか?」

「大丈夫でしょー、俺、一応OBだし」

そう言って、壱成さんはズカズカと中に入っていった

私も慌てて追いかける


そうして、部室棟の一番突き当たりにある部屋の前で立ち止まった

「ここが俺達のサークル部屋」

そう言って壱成さんが扉を開けると、途端に眩しすぎる程の光が廊下に溢れ出して、私は思わず目を閉じた

「ここ、めっちゃ日当たり良いんだよねー。
多分、この部室棟で一番。
もう当時は日焼けして大変だったよ」

そう言って壱成さんはケラケラと笑った

私は小さなサークル部屋を一周見回した



レポートや漫画が散乱した部屋

部員達の私物

食べかけのお菓子




その部屋は、今日は休憩しているけれど、いつもは活気に溢れているのが、よく分かった

ここで、学生達は、泣いて、笑って、悩んで、苦しんで、友情を築き、愛する人と出会って、日々を必死に生きている

そして、先生も5年前まではここにいた―――

「…あれ!?こんなんまだ貼ってあったのかー!」

そう言っている壱成さんの視線の先を見ると、そこには棚の片隅に貼られた1枚の写真があった

その写真はサークルの人、皆で撮った写真のようで、中央には、今より若い先生と壱成さんが写っていた

「これ、雪の誕生日の時のやつじゃん!この後、美雨と雪、二人で消えやがってさー!主役のくせに!」

そう言って壱成さんは懐かしそうに笑った

その話を聞いてもう一回写真を見直してみる

満面の笑みを浮かべる壱成さん
そして、少しカメラから視線を反らし、横にいる女の人の事を、今までに見た事のない位、優しい笑顔で見つめる先生
そして、壱成さんと先生の間に挟まれて、まるで太陽のように満面の笑顔で笑っている女の人

―――それが美雨さんだって、すぐに分かった
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