Rain
「…ありがとうございました……」

私が、そう言って保健室から出てくると、そこには不安そうな顔をする坂田さんと、私の事を強い目で見据えてくるクラス委員の長島さんがいた

長島さんは、あの日、坂田さんと一緒に傘が無くなったと騒いでいた人だ

坂田さんは私が出てきたのに気が付くと慌てて、近寄ってきて声をかけてくれた

「本條さん!ケガは大丈夫!?」

「…うん、大した事ないよ……」

私達がそんな会話をしている最中も、長島さんはずっと私の方を強い目で見ている

そして遂に、口を開いた

「……これで許されると思ってないよね?
……あなた達は傘だけじゃない、小さな事も含めれば沢山の嫌がらせを葉月にしてきたのよ」

「理佐ちゃん!」

そう言って止めに入ろうとする坂田さんを遮るようにして続けた

「…葉月だけじゃないわ。
あなた達は気に入らないからって、クラスの色々な女子をいじめてきた。
……クラス委員のくせに止められなかった私にも非はあると思う。
でも、あなたも今回の事だけで許されるとは思わないで」

そう言って、長島さんは真剣な目で私を見据えてきた

私は、そんな長島さんに答えるように、私自身も目をそらさずに言った

「……分かってる。
取り敢えずは明日、私が盗った傘を持ってくる。
そして、今までいじめた事のある人、全員に謝る。
そして時間をかけて償っていく」

真剣な目でそう言った私を、暫く見据えた後、長島さんは私に深々と頭を下げて言った

「…でも、葉月の傘を取り返そうとしてくれたのはありがとう。
あれは葉月にとって、凄く凄く大切な物だから…」

そう言い残すと、長島さんはスタスタと私の元から去っていった

そんな長島さんを追い掛けるように坂田さんも、慌てて私の前を走っていく

そしてすれ違い様に振り返って言った

「あ、あの……本條さん!私の傘を取り返そうとしてくれて本当にありがとう!私、嬉しかった………傘を取り返そうとしてくれたのは本條さんが始めてだったから―――!」

私は気が付くと、そんな坂田さん達を追い掛けて聞いていた

「待って!
……私は……存在する価値があるの……?
……存在してるだけで皆に迷惑をかけているんじゃないの……?」

私がそう言うと、坂田さんは驚いたように言った

「そんな訳ない!
だって、私の傘を、ケガしてまで取り返そうとしてくれたのは本條さんだけなんだよ!?
それなのに存在する価値が無いなんて……そんな事、絶対に無い!」

そして長島さんも言ってくれた

「……もしかして、松雪の言ってた事、気にしてるの?
……もし、そうなら全く気にする事無いわ。
人の物盗っても、人をいじめても何とも思わない堺達より、あなたの方が数倍、存在する価値があるから………

……現にあなたは変わったでしょう?」

長島さんのその言葉を聞いた途端、私の目からは涙が溢れてきた

…変わった?

……私は変われたの…?

「…私は、存在してても良いの……?」

「勿論だよ!」

私はその後、坂田さんと長島さんに支えられながら、子供のように泣きじゃくった
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