【空色の未来[海色の過去]】



午後の授業…。



葵が前は苦手だった国語を
教師として授業するのは
いつ見てもぎこちなくなってしまう…


勉強頑張ったんだね…

偉い偉い


葵は昔から無駄に情熱的で
真面目だったから一つ一つの事を
丁寧にやる癖がある…




なのに



今葵の授業は始まっていない…
てか、葵がクラスに来てない


嫌な予感がする



何も起きませんように…






私の願いは届かず
運命の歯車はすでに動き始めていた。






ガラッ…


「おい、お前ら席に着け!!静かにしろ!!」


やっと葵は戻ってきた。
葵は私を見てほんの一瞬だけ不安を帯びた顔を見せた…。




なんだろ…いつもより葵そわそわしてる




「今から急だが、転校生を紹介する…
入ってこい……。」

葵は廊下にいる人に声をかけた。


ガラッ…



そして、一人の女の子が入ってきた…。









時が凍りついたようだった。



私は瞬きも呼吸も忘れその子から目が離せないでいた…。







「………………美緒…。」


ビクッ




彼女の唇から私の名前が放たれ
私は大袈裟なほど肩が跳ねた



何で…

何で…ここにいるの…?




逃げなくちゃっ…

今すぐここから逃げなくちゃっ…


ガタンッバタンッ…

ガラッ…

私は驚くほど乱暴に机と椅子を倒してこじ開けるようにドアを開けて教室から走って出た。


後ろから彼女の追ってくる気配がしたがそれ以上に走るスピードを上げて逃げた。







どのぐらい走ったのかな……





私はいつの間にか
知らない教室に来ていた

隅の方に棚があって、そこにはぎっしりと本が並べられてあった。



不思議と吸い寄せられるように
私は一冊手にとって中を見てみると…

そこには写真とメモ書きみたいのがつづられていた


ドキッ



この写真って…



「俺の兄貴のだよ…。」

ビクッ…



いつの間にドアから入ってきたのか、
背後から聞き覚えのある声が聞こえた


ゆっくり私は振り向くと、

そこには…祐介がいた。


祐介は私に無表情のまま一瞥するだけでそれ以上は何も喋らなかった…。



体が震える
息が苦しい
心臓を鷲掴みされてるみたい…


でも…私は聞かなくちゃいけない





「祐介…の、お兄さんって…?」


祐介は私から目をそらさず真っ直ぐにあの無表情を向けた


「黒木 詠志(クロキ エイジ)…」





(…俺、黒木詠志…よろしくな…。)

……。

(…美緒さん!!ここは危ない!逃げてください!!)

……。

(貴女に会えて良かった…ウッ…カハ…)





詠志さん…。




優しくて情熱的でいつもチームの中で一番冷静で全ての情報握ってんじゃないかって思うほど何でも知ってて…

最後まで私を護ってくれた人…

忘れるわけないよ
忘れるはずがないよ…




詠志さんの弟が祐介…


てことは




「祐介……“全部”知ってるの…?」


「ああ……“全部”」







どうして、神様は私を嫌うの…




私は祐介から離れたもう1つのドアまで全力疾走した…。
だけどそれは祐介が腕を掴んだことにより止められた


イヤッ…放して!


「離して…祐介っ!!」

「嫌だ」

「お願いっ…」


響也達に過去をバラされるのも怖いけど詠志さんの事を知ってる祐介が過去を知ってることに罪悪感と自分に対しての嫌悪感が増してくる…


ごめんなさい…
ごめんなさい…
ごめんなさい…
ごめんなさい…

「ごめんなさい…ご…めん…」


「自分を責めんなよ…
悪いのは全部“彼奴等”だ…」


えっ…


「祐介…どこまで」

ハァ…

祐介に大きな溜め息をつかれた

「だから言ってるじゃん…
“全部”知ってるって…」


そんな……。






ガバッ



私は思いっきり祐介を押し退けて少し距離を空けて祐介に向かい合った






「詠志さんを殺してごめんなさい!」






頬から涙が溢れる…


「私は取り返しようもない貴方のお兄さんの命を奪った悪女…!
詠志さんを護れなくてごめんなさい…!!」


同情なんて誘ってないのに涙は止まることを知らないでいた






「兄貴が死んで…最初はお前を恨んだ…
てか、ぶっ殺してやるって思ってた…。
だけど、
兄貴が死ぬ前に俺のとこ来て…
全ての情報が載ってあるファイルを俺に託したのを思い出したんだ…。
そこにはお前とチームの事も載ってた。
それを見たら、お前を恨むなんて
出来ないって思えたんだよ…。

よっぽどお前の方が辛過ぎるから…。」



祐介は私を責めなかった




クッ…ウッ…ウッ……ウッ……フ…


私は自分自身に対する嫌悪感と苛立ちで一杯になって、嗚咽した。



その間ずっと祐介は傍にいて私が泣き止むまで背中をさすってくれた。







しばらくして、泣き止んだ私は祐介に向き直った。


「祐介……貴方がどこまで知ってるのかまだよく分からないけど…
ひとつだけお願い…、


その事は誰にも言わないで…。」







「でも、ほとんどの奴等はお前を“裏切り者”だと勘違いしてるんだぞ…!。
お前も深い傷を負った方なのによ…!!」


その言葉で祐介が本当に全てを知っていることを示すのに充分だった。



「良いの……。
それほどの罪を背負ってるのだから、
“悪女”には相応しい罰だと思う。」




「でも…誰も幸せになんて、なれねえ!!」




「少なからず…誰も傷つかずに済む。」




「でも…、これじゃあ不公平だ…」




祐介は下唇を噛み締めて苦渋の顔をして見せた。


「祐介…」









「お前を護るって……」








「あの時、俺を護ってくれたように…
今度は俺がお前を護るって決めたんだ!!」







祐介は頭を抱えてムシャクシャと掻き毟る(カキムシル)と項垂れた…。






祐介の口調に違和感を覚えた。
何か大事な事を忘れてる気がする。




これって…





「ねえ…祐介…」



「あ?」




「私達……初めて会ったのって
私が転校してきた日だよね…?」





「……。」




祐介は黙った…。









「初めて祐介と出逢ったのはいつ…?」




「俺が13歳の誕生日を迎えた日…。」





祐介は懐かしそうに目を細めて思い出の1ページ目の日付を教えてくれた。





そう…





祐介は4年前にすでに私と出逢っていた






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