【完】36℃の思い〜世界で1番大切なキミへ〜
長沢大貴。
そいつは変わった人だった。
どんなに無視しても、どんなに適当にあしらっても、長沢は俺に話し掛けてきた。
1人にしてくれればいいものの、長沢は俺を1人にしなかった。
部活でも、クラスでもいつも輪の中に入ろうとしない俺を長沢は強引にその輪の中に引き込む。
長沢はみんなをいつも笑わせていて、ムードメーカー的存在。
そしてお節介。
俺には理解が出来ない。
どうして他人をここまで気にかけるのか、不思議でたまらない。
ある日長沢が俺に言った。
『心から笑わなくてもいい。だけど、愛想笑いくらい出来た方がいいよ。その方がいくらか生きやすくなる』
最初は何言ってるんだ?なんて思った。
だけど、長沢の言葉は本当だった。
愛想笑いは相手と自分の間に境界線を引くことが出来た。
これ以上何も聞かないで。
これ以上関わってこないで。
これ以上踏み込んでこないで。
という合図。
相手はそれを察知して俺に必要以上関わってこようとはしない。
それを知った俺は、愛想笑いをよくするようになった。
なのに、長沢はいくら俺が愛想笑いをしようとも...ずかずかと土足で踏み込んでくる。
こんなタイプのヤツなんて鬱陶しくて、ウザくて、嫌で嫌でたまらないはずなのに。
どこか安心している俺がいる。
そんな長沢が俺の救いでもあった。
俺は楽しいなんて感情を持ったらいけないのに、でも、それでも、長沢といたら楽しいなんて思ってしまう時がある。
そんな時、長沢が無理やり誘ったから。
長沢が俺を無理やり笑わせたから。
最低だけれど長沢のせいにすることで、罪悪感が少し消え救われていたのは確かだった。