【完】36℃の思い〜世界で1番大切なキミへ〜
7月──
記憶が戻って2ヶ月が経った。
記憶を取り戻したって、そのことを知っている人はとっち以外にいないため、表面上はいつもと変わらない日々を過ごす。
いつも通り千沙と話したり、ご飯を一緒に食べたり。
りゅーちゃんとは相変わらず必要最低限の会話だけで、私は避けられてる。
記憶を取り戻す前は、直感的な感情で過ごしていたけれど。
今となっては一筋縄ではいかない。
あんなに記憶が戻ることを望んでいたのに...今では記憶が戻らない方がみんな幸せになれたんじゃないかなんて思ってしまう。
それでも戻ってしまった以上、私は記憶が戻っていないフリを演じる。
それは決して楽しいものなんかじゃなくて、苦しくて、辛いもの。
だけど、打ち明ける勇気も覚悟もない私にはこの選択しか残っていない。
「未菜?」
考え事をしていた私を心配して千沙が声を掛けてきた。
「なにかあった?」
そんな質問に〝なんでもないよ〟と笑顔を作り答える。
「そっか。なら手を動かしてよね!」
「はーい」
私達は1週間後に迫った学祭の準備真っ只中。
教室の中は慌ただしく生徒が各自仕事に取り組んでいた。