彼は藤娘
「なあ?せっかくやしこのメンバーの有志で、来年の各校の文化祭、回るとか、どう?」
義人くんの思いつきは、確かにおもしろい。
現実化するかどうかはさておき、チャレンジする価値はありそうだ。
「各校の反応次第やね。うちは排他的やし厳しいかも。それに音楽教諭ってあんまり立場強くなさそうやし難しいかもしれんけど……やってみようか?」
燈子ちゃんがため息をついた。
「……2人とも、自ら仕事を作って背負(しょ)い込むねえ……」
義人くんと私は顔を見合わせた。
「あきちゃんとは同志やからな。」
「確かに、同好の士やね。」
にやりと笑い合ってると、背後から聞きなれた怒りを含んだ声。
「……仲ええやん。」
彩乃くん、笑いが引きつってる。
「彩乃くんも一緒に、歌う?」
「だ~め!今日の舞台に乗ったメンバー限定。彩乃は客席で指をくわえて見とき。ほな、あきちゃん、打ち上げの場所どうする?」
これ見よがしに義人くんは彩乃くんの目線から私を遮るように名簿を開いた。
義人くん、やりすぎ!
私は慌てて、口をへの字に結んだ彩乃くんの腕を取った。
「帰ろっか。義人くん、打ち上げの連絡、女子校は全部私がするから。男子校と共学はよろしく!」
そう言って、彩乃くんを引っ張り気味に楽屋を出た。
コンサートホールを出ると、少し肌寒かった。
まだまだ暑いと思っていたけれど、日増しに秋になってるようだ。
「このままお家元でお稽古?」
「ああ。あきも来るやろ?」
……まあ、用事はないけどね。
「……そう思って、勉強道具持ってきた。彩乃くんがお稽古してる間、彩乃くんのお部屋でテスト勉強して待ってるね。」
すると彩乃くんは、拗ねた!
「俺の稽古、見ててくれへんにゃ。」
「え!だって、他にもお稽古来てはるよ、今日。日曜日やけど、何人か先生方がお家元に見てもらってはるはず。」
もはや彩乃くんよりも芳澤流のスケジュールを把握しつつある私がそう言うと、彩乃くんはしょんぼりした。
「ほな、家元に見てもろたら、あとは家で稽古する。あきも一緒に来て。」
……どうしても私にテスト勉強させない気らしい……・いや、見ててほしいらしい(苦笑)。
めんどくさい人。
でも、愛しい人。
「どこへでも。仰せのままに。♪king of kings,and lord of lords♪」
私がうやうやしくそう言って歌うと、彩乃くんは満足げにうなずいたけど、しばらくして真面目な顔で言った。
「複数形やん。あかん。あきのkingもlordも俺だけやしな。」
……仰せのままに。